導入事例 ボール(基準球)計測マクロ導入により初品の不良が大幅に減少、精度不良の機械でも稼働が可能に(滋賀県)
概要
導入先業種 | 大手機械部品メーカー |
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工作機械 | 森精機製立型マシニングセンタ+5軸CNC円テーブル |
加工時間 | 60~90分 |
工具本数 | 8~13本 |
5軸加工によって工程を集約
この工程では前工程で旋削加工したワークに、ミーリング工具でポケット(くぼみ)形状を加工している。
このポケット形状を構成する各面は斜めに傾いていて、さらに面と面との間にはネッキング(くびれ)があるため、通常のX, Y, Z軸しか持たない3軸マシニングセンタでは加工できない。
そこで、ワークを傾斜、回転させることができる5軸テーブルを付加し、直交X, Y, Z軸に加えて、傾斜B軸と、回転C軸を使った5軸割出加工を行っている。
従来なら、傾斜角度毎のジグ(取付け具)に、取付け取外しを繰り返さなければならなかった工程を、5軸割出加工によって1工程に集約している。
5軸加工/5面加工に特有の難しさ
マシニングセンタ等の機械加工では、試し加工したワークの寸法を測定し、ねらい寸法との誤差を補正する寸法調整作業が必要になる。
例えば、エンドミル加工をしたポケット部のX, Y, Z軸方向の位置のずれ量を測定し、そのずれ量をワーク原点位置に加算して、誤差を補正する。
3軸加工であれば難しい作業ではないが、ワークの姿勢が変わる5軸加工や、工具の姿勢が変わる5面(ユニバーサルヘッド)加工の場合、全てのワーク姿勢、あるいは工具姿勢の加工寸法を許容値以下に収めなければならない。
B0°姿勢での精度が良好でも、B90°姿勢の精度は不良となり得るし、逆にB90°姿勢での位置を合わせようとすると、B0°姿勢での位置がずれてしまう。さらにB0° B90°に加えてそれ以外の全てのワーク姿勢での加工精度も確保しなければならない。
この例に限らず、5軸加工/5面加工で精度を確保しようとするときに直面する問題は多いが、その要因を注意深く探っていくと、どの問題にも共通する課題が見えてくる。
【課題1】旋回中心座標の測定が難しい
NC制御装置には、種種の5軸加工/5面加工機能が搭載されている。
工具先端点制御、傾斜面加工指令等がその代表例であるが、これらの機能が効果を発揮するためには、まず正確に心出しされた旋回中心座標値がパラメータ設定されていることが必須である。
旋回中心の心出しは、テストバーとダイヤルゲージを使うのが従来からの一般的な方法であるが、実際に作業をしてみると各軸のストローク制限や干渉制限があり、簡単ではないことが分かる。作業者の技能によって測定結果に差が生じることもある。
【課題2】多くの誤差要因が積み重なってしまう
別の事例では、試し加工したワークの精度を測定した結果、位置度0.21mmで、許容値±0.05mmを大きく超えていたため、機械の精度を再度調整することとした。
まず、旋回中心座標を測定した結果、パラメータ設定値との差が0.13mmあったため、設定値を修正した。
また、B軸中心とC軸中心のずれはX軸方向に0.08mmあったが、B軸の原点位置を調整した結果0.03mm以下になった。
またB軸割出し角度を簡易的な方法で測定したところ、0.01deg程度の誤差がみられた。この量は旋回中心から250mm離れた刃先位置に換算すると0.04mmの誤差であり、許容値と比べて無視できない量であったが、信頼性のある測定ができなかったためこのままとした。
さらにB軸の動きに伴う加工点の軌跡を調べると、X-Z平面内で円運動をしているはずの加工点が、Y軸方向にも0.05mm程度動いてしまっていることが分かった。5軸テーブルの取付けを調整し、Y軸方向の動きを0.02mmにすることができた。
これらの精度調整を行った後、再度試し加工をしたワークの精度は、位置度0.08mmであった。最初に比べて改善したものの、許容値を満足することはできなかった。
個々の精度を可能な限り調整しても、それらの誤差が足し合わされて、結果として無視できない誤差量になってしまうことが分かった。
このように様々な誤差が複雑に積み重なってワーク精度に影響するのが、5軸加工/5面加工の特徴である。
ボール(基準球)計測マクロの導入
上記に述べた5軸加工の課題を解決するために、ボール(基準球)計測マクロを導入した。ボール(基準球)計測マクロは、直径約25mmのボール(基準球)の位置をタッチプローブで測定することで、5軸テーブルの誤差を計測し補正するマクロプログラムである。
誤差補正は下記の様に、いくつかの段階に分けられる。
【第一段階】旋回中心計測
これは5軸テーブルに取り付けたボール(基準球)の軌跡をタッチプローブで測定し、旋回中心座標を自動心出しするマクロプログラムである。
従来のテストバーとダイヤルゲージを使った方法では煩雑で難しかった旋回中心の心出しが、ボール(基準球)計測によって短時間でできるようになった。
また、作業者の技能による測定結果の差もなくなった。
この旋回中心計測マクロで、5軸加工の精度が向上した。
【第二段階】データベース誤差補正
これは傾斜軸角度毎の誤差データベースを基に、加工原点を補正するマクロプログラムである。
第一段階の旋回中心計測を行っても、それ以外の様々な誤差が積み重なり、5軸テーブルを割出した時の実際のボール(基準球)の位置は理論位置からずれる。そのずれ量を傾斜軸角度15°毎にタッチプローブで測定記録して、誤差データベースを構築する。そしてその誤差データベースを基に、加工時に傾斜軸角度に対応した補正量を加工原点に加算することで、第一段階で除去できなかった誤差を補正することができる。
このデータベース誤差補正で、5軸加工の誤差が減少し、初品加工の不良率が低減した。
ボール(基準球)計測マクロ導入の効果
初品の不良が大幅に減少
ボール(基準球)計測マクロを導入した結果、5軸加工の不良率、特に初品不良を減らすことができた。
このワークの場合、小径のボールエンドミルを複数本使用して複雑な形状を削り出していく。加工後のワーク形状を3Dスキャナで走査し、形状の誤差量を読み取る。読み取った誤差量を加工機に補正量として投入し、再び試し加工をする。新規ワークの立上時には、この様な誤差補正工程を何度も繰り返してやっと1個目の良品にたどりつく。
ボール(基準球)計測マクロを導入した結果、こうした初品の寸法調整工程の時間を大幅に削減できた。
同じマクロプログラムを同ラインの機械全5台にも展開し、さらに同社の他工場にも展開する予定である。
精度不良の機械でも稼働が可能に
ボール(基準球)計測マクロを導入した5台のうち1台に、事故歴のある精度の悪い機械があった。
ボール(基準球)計測導入の過程で、精度不良の要因が5軸テーブルにあることが特定でき、また特定の角度で割出角度の誤差が大きいことも分かった。
そこで、データベース型誤差補正マクロを導入したところ、必要な精度を確保できるようになった。
5軸テーブルの修理に時間と費用をかけずに、加工精度を確保して生産を継続できるようになった。
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